穏やかな気候。 穏やかすぎて、欠伸が出るほどの午後。 身体の横を吹き抜けていく風が、気持ちいい。 草原にゆったりと寝転がり、遼龍は深く息を吸った。 「眠いわ……」 そのまま、眠りに落ちたいと思った。 実際、彼女はまぶたを閉じようとした。 だが、そこで呼ばれた。 「……遼龍」 声は穏やかで、温かかった。 それは女性の声……聞いたことは、あるような、ないような。 「遼龍……」 「ん……」 遼龍は、閉じかけていた目を開いた。 誰かが彼女の手を取って、立ち上がらせた。 その誰かは……、 「鈴鳴」 遼龍は、昔見知っていた少女の名を呼んだ。 「いいえ……私は、鳴鈴と申します」 女は、穏やかに答えた。 「鈴鳴の、姉ですわ」 「……、そう、でしょうね」 鈴鳴は、もういないのだから。 遼龍は、気怠さを追い払うように首を左右に振った。 「それで、私に何の御用?鳴鈴さん」 その問いに、鳴鈴は、ふ……、と笑った。 「ついていらっしゃい、遼龍」 穏やかな言葉の流れに、遼龍は、いつの間にか頷いていた。 |