月下氷刃
南姫の章






「ほぅ……そなたが、龍の子」
紅をひいた唇が、遼龍の目の前でおかしげに歪められた。
その女性が身に着けているのは、きらびやかな衣装。
自分とは明らかに違う世界の女性に、遼龍は言葉を見失う。
「遼龍……と申します、夏妃様」
そう答えたのは、遼龍ではなく鳴鈴。
女性は、軽く頷き、問うた。
「……そなたの持つ龍の力、いずれのものぞ……?」
「は……?」
唐突な質問だ、と遼龍は思った。
だがそれ以上に、理解できなかった。
その意味が。
龍の……ちから?
「おや。盟約はすませておらぬのか?リァォ?」
「……盟約、とは……」
わからないから、聞き返す。
全く覚えのないことだ。
「ほ……、おそろしいこと……。リァォは自らの血の呪いさえも知らぬと見える……」
夏妃はまた笑い、遼龍の手を取った。
「おいで、遼龍……そなたは、知らねばならぬ……」
「はぁ……」
夏妃の言葉には、どこか絶対的な力があった。
頷いて、彼女に導かれるまま長い長い廊下をわたる。
いくつもの階段を降り、暗い部屋へと案内される。
燭に火が灯されると、ぼんやりと浮かび上がるものの輪郭。
「……書庫、ですか?ここは……」
見る限り、部屋を埋め尽くすように書物が並んでいる。
遼龍は、いまだかつてこんな部屋を見たことはなかった。



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