月下氷刃
西王の章






「飛」
光覇が呼んだとき、飛龍は湯気の立つスープを口に運んでいるところだった。
視線をかえたために、手元がぶれ、雫が組んだ膝へ落ちる。
「熱……っ!!」
ぱたぱたと振り払う仕草をする飛龍。
その姿を見つめながら、光覇は重い声を絞り出す。
「……動乱が起ころうとしている……、龍は最後の盟約が終わる瞬間を待ちわびている……」
それに気づいた者達はほんのわずか……
だがそれでも存在することを……前日のような騒ぎが……示している……。
「世界は動き出す……」
そしてその中心にいるのは……
龍の力を持つこどもと……
王の血を引く者……
「日は近い……そうだろ? 飛……」
光覇の問いに、飛龍も食事の手を止めて答える。
「そのようですね」
「お前の力も……高まっている。いや……このところ暴走気味だな」
光覇が見つめる飛龍の瞳は、薄く赤味を帯びて輝き始めていた。
「そう高ぶるな……」
くくっ。
光覇は面白そうにのどを鳴らした。
そう……動乱が始まろうとしている……。



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