月下氷刃
北帝の章






幾つもの朝と幾つもの夜が過ぎ…
子どもは成長していく。大人へと。
緩やかに、だが確実に。
変化が起きたのは、飛龍がもうすぐ十六になろうとしていた春だった。
桃のつぼみがほころび始め、風に揺れる。
その下で、飛龍と光覇は温かくなりはじめた日光を浴びていた。
そして……、
それは唐突だった。
いつもそれが起きるときのように飛龍の身に危険が迫った、そういうわけではなかった。
何の前触れもなく、飛龍の瞳が紅く燃え始め、彼の周囲の空気が熱せられていく。
「飛!」
光覇が叫ぶとほぼ同時に、飛龍の身体そのものが紅蓮に輝く炎に包まれていた。
炎の中で、飛龍の姿が揺らめく。
「飛!!」
光覇の伸ばそうとした腕は、飛龍から発される熱気にあっさりと拒まれた。
「……盟約は完了した……」
飛龍の口から、そう、告げられた。
「……動乱が始まる……」



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