導かれるまま光覇の部屋に足を踏み入れ、飛龍は嘆息した。 「光覇様、ご覧になりました書簡は、お片づけ下さいませ…」 視線の先には、机上に山と積まれた竹簡、木簡、書簡たち。 そんな飛龍を、光覇は軽く睨んだ。 「飛」 呼びかけ、手近に転がっていた筆を飛龍に投げつける。 もちろん、ごく軽くだが。 「光覇、でよい。龍を手なずけようとは思わぬ……」 「……しかし、光覇様。いえ……小覇王、貴方は、いずれこの国の……」 「王となる。わかっているつもりだ……。お前と同じく、これも血の定めというもの。しかし、だ……」 王となるべきものの側に龍の力を受け継ぐものが生きる…、それは定め…、宿命というもの…。 光覇の元には飛龍が……、それは、定め。そして…… 「飛。お前の力は『炎』。お前の血を分けたものは幾人居る?」 必ず同日に生まれ落ちる複数の龍の子……。 龍の宿命、それは戦国に生きること……。 「…それは、分かりかねます。龍の子は、生まれ落ちると同時に養子に出すが常…、私は、兄弟の名も存じません」 戦いに生きるのが龍の子の宿命であるのならば、それを見守るのが彼ら盟約の一族の定め。 その昔、一人の男が龍と交わした契約、受け継がれた血の盟約は、彼らに戦いを求めさせる……。 「……そうか」 光覇は少し考え込むようにし、飛龍から目をそらした。 会話が中断されて間もなく、食事が運び込まれる。 光覇がその足音で会話を止めたのは疑いようのないところだと飛龍は思った。 「……大丈夫です、光覇様。王の座は貴方に……私が、差し上げましょう……」 飛龍の瞳が、わずかな時間、紅く煌めいた。 |