月下氷刃
北帝の章






鮮やかな紅の帯紐。
動くたびに、下がった鈴がシャラリと鳴る。
それに目を奪われる暇もなく……、
シュウッ、
目の前に繰り出される拳は、寸前で止まり。
「小龍。いつまでたっても体術だけは進歩せぬのだな」
「はぁ……」
快活に笑う青年に、小龍は肩を落として嘆息した。
「ですが梨桜、私は……」
「例え意義を見いだせずとも。いずれ分かるときがやってくるのだ」
「…………」
梨桜は。
小龍にとっては、全く理解しがたい女性であった。
わかるのはただ、髪の長い女性であるということ。
異性としてはおそらく魅力的な部類にはいるのであろうこと。
それから、おそらくは、異民族の血を引いていると思われる、明るめの髪と瞳を持っているということ。
それから……ただ、強いひとだということ。
姓は知らず、普段何をしているかも知らない。
時折現れては、少々の武術の手ほどきと、いくらかの言葉を与えて去っていく。
わからない女性だ……。
「ところで小龍。このような場所で休んでいてよいのか?」
ぼうっと沈み込んだ考えに、不意に梨桜の声が滑り込んでくる。
言われて、思い当たることは。
「いけない……!」
梨桜に一礼をし、小龍は小道を駆け出す。
用事を、思い出した。


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