月下氷刃
南姫の章






ぎ……、 床のすれる音がして遼龍が目を開けると、そこは石の壁に囲まれた部屋になっていた。 部屋の中央には複雑な文様の描きこまれた二重の五芒星…… 「これは……」 振り返り、遼龍は夏妃を見る。夏妃は小さく笑みをこぼし、その隣にいた鳴鈴が一歩前へと進み出た。遼龍の腕をとる。 とても冷たい手だと、思った。まるで血が通っていないような…… 「さあ、こちらへ……」 ゆったりとした歩みで、鳴鈴が遼龍を導く先は、五芒星の中央……薄く白色の光がそこから放たれている。 「盟約を行いましょう……龍の子……」 鳴鈴の足が光を踏んだ。光が膨張した。下から風が吹いているかのように揺らめき上がった彼女の髪から、徐々に色が失われていく。 「……さあ……」 何が起こっているかを理解できず、立ちつくす遼龍の腕を、光の中の鳴鈴がひいた。 「さあ、いらっしゃい、龍の子……」 そして遼龍も、光の中へと飲まれていく……。 「これから見る全てのことは……忘れてはいけない……」 鳴鈴の言葉が耳元で弾ける。 浮遊感と虚無感が同時に遼龍を襲う。 「さあ、いらっしゃい、龍の子……」


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