学校へ行くまで、途切れることのない桜並木。 上を向いて歩いていく少年は、小春日向という。 時折両手の親指と人差し指で四角く景色を切り取ってはその中を覗き込むようにする。 それは日向のお気に入りの行動のひとつだった。 「うん、好きだな、ここ」 呟き、日向はそのままアスファルトに座り込んだ。 彼が斜めに見上げるのは桜の木々。 それから、その間からのぞく青空。 通っていく他の生徒達は、日向を迷惑そうに見ていく。 もしくは、奇異なものを見るように。 だが日向にとってはそんなものは関係なく、彼は膝の上にスケッチブックを広げた。 真っ白な紙の上に、サラサラと鉛筆を滑らせていく。 黒の濃淡だけで描かれていく景色。 日向は時折顔をあげて微笑み、また絵を描くことに集中する。 まるで、彼の周りだけが時間の流れから切り離されているように。 黙々と、熱心にスケッチブックに向かう少年の姿は確かに滅多に見るものではなかったが、それでも先を急ぐ子供達は彼を振り返る程度で、まじまじと見たりはしない。 やがて日向がスケッチブックを閉じた頃には、彼の前から人通りは消えていた。 日向は笑う。 笑って、学校への道を行く。 重要なものは脇に抱えたスケッチブック。 それは日向だけが知っているものだから、だ……。 |