この春から晴れて受験生。いや、彼の気分としてはまったく『晴れて』などはいないわけだが。 高校受験。 これはただの通過点でしかない。ほぼ誰もがそう思っているだろう。 木原双飛もその一人だ。 高校へ行く目的はあくまでも大学にはいること。入試はそのための踏み台でしかない。 その事実は、彼にやる気を起こさせない最大の要因だった。少なくとも彼はそう主張するだろう、誰かに問われれば。 だが、そう言って遊んでいられたのも去年まで。 その事実は目を背けたくなるものだが、実際に親から塾へ行けと命じられれば、避けているわけにも行かず。 「…期待が高すぎるんだよな…」 つまり、親の。 まったくわけのわからない問題を睨み付け、双飛はつぶやく。 そこそこの高校からそこそこの大学、そこそこの企業。 それでいいと、彼は思う。つまるところ、生きていけるならそれで。 ただ目の前には自分が受験生だという事実があり、それは否定できない。 でも、たかが高校受験で、受験のためだけに必死になりたくはないのだ。 結果、塾へ行き、授業は聞くものの頭にのこらない。 そんな生活を、彼は送っている。 毎日毎日。 その事を未来から振り返ったとき、どう思うだろう? (きっと、くだらないことしてたな、とか、そういうことしか思い出せないんだろうな) 溜息をつき、双飛は再びテキストの問題に集中しようとした。 失敗することは、初めから解っていたけれども。 |