ああ、そうか。今日は誕生日か。 クラスメイトに言われた「おめでとう」で、木下咲はその事を知る。 小学校の頃ならともかく、今はほとんど誕生日を意識することなどなかった。 生まれた日。それが何だというのかよくわからない。 とりあえず、今朝出かけるときに父親が言った言葉の意味はわかったが。 いわく、 「ごめんな、今日も遅くなる」 そんな事はいつものこと、何故今日に限って……と、思えば。そういうことだったわけだ。今日も、帰りは咲が寝た後になるのだろう。 「……ふぅん」 プレゼント用の包装紙に包まれた小さな箱を、手の中で弄ぶ。 今朝最初に貰った誕生祝い。 帰った頃には、毎年のように母からのプレゼントが届いているだろうか。 別居中の母親。 会いたくないわけではないが、会えないならそれでいい。大人の世界を信じるほど、無垢な年でもない。 それに。 誕生日が過ぎても、どうせ日々は同じように過ぎていく。 「何がめでたいんだか……。……年喰っただけじゃん」 誕生日が待ち遠しくて、ケーキの火を吹き消すことを楽しみにしていた、そんなことは遠い話。 年に一度、貴重な日、そんな認識も特にはない。 ただ自分にとっての日常の連続の中で、他人にとっては特別な日。 それが、今日なのだろうと、少しためいきをつく。 それから咲は、いつもの昼休みのように、心地の良い眠りに落ちた。 |