雨というのは嫌いな人間も多いけれど。 石守一矢は、降り始めた雨の中、手にした傘を開く素振りすら見せず校門を出た。 小雨は好きだ。 アスファルトをうつ雨音も、少し濃くなる木々のにおいも。 なにより一矢は濡れて帰るのが好きだ。 水たまりを踏みつけて、少し立ち止まって振り返ってみたり。 そういう、ひとつひとつの所作が、一矢は好きだ。 「がきっぽい」 幼なじみはそう評した。 自分でもそう思う。 普段の一矢からは想像できない姿だろう。 クラスメイトには、普段、こんな子どもの自分は見せていない。 道の向こうから、見知った子犬が駆けてきた。 雨にぬれて泥だらけで、白い毛並みがまだらに茶色になっている。 じゃれつかれて、一矢の制服のズボンも泥に濡れた。 「……あーあ」 言いながらも、一矢の顔は笑う。 「今日は、俺の家、来るか?」 そのまま子犬を抱き上げ、腕の中におさめた。 隣の家の、幼なじみの、子犬。 幼なじみも、もうすぐ走ってくるだろう。 あの角を曲がって。 |