月下氷刃
北帝の章






温かい日差し。
行き交う人々。
彼が市に出たのは邑維に使いを頼まれたからだった。正確には、頼まれたのは小龍なのだが。
その彼は、流れる人の中を慣れた様子で歩いていく。
手に提げた籐のかごには薬草やらなにやらがつまっている。
邑維は薬師であり、小龍は、普段は彼に師事しているらしい。
そう、全ての知識を宗優に捧げるために。
そして……、
「小龍!」
彼を呼ぶ女の声に、宗優が頭を上げると。
「このところ姿を見せぬと思うたら、このような場所におったか。そのかご……邑維殿がお忙しいようじゃの」
「梨桜。連絡も取らず申し訳ない」
薄く赤味のかかった長い髪に、小さく金色の鈴。彼女が少し動く度に、それが微かな音をたてた。
「小龍、主、瞳の色が抜けておる」
梨桜の指が、くい、と小龍の顎を持ち上げる。
「金色……ほどではないが……、ふむ……」
呟いて彼女は小龍を解放し、宗優を見た。
意味ありげに微笑む。
「名は?」
唇が動く。
「宗優」
宗優が答える。
梨桜は……再び微笑み、人混みの中へと姿を消した。



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